14話「笑い - what suprises him」


 空腹を満たすと、3人で少し雑談をした。それは戦いとも専門知識も関係のない会話だった。絵美は勝也に生活費のことを尋ね、たぶんバイトはクビになったと答えた。その推測のおかしさに2人は笑った。この食堂はタダだと博士がいい、研究所に住めば家賃も浮くと絵美がいう。聞くところによれば、博士も絵美も研究所に住んでいるらしい。そしてサチも節子も。
「そういえば太次郎はどこ行ったんだろうね」
「太次郎ならクーパーズタウン支所じゃぞ」
「あら、ド田舎に行っちゃってるのね」
 話題が逸れたと感じて、勝也は立ち上がった。
「どこに行くの?」
「さあ。どこかに」
「暗くなる前に帰ってくるんじゃぞ。ヒョヒョッ」

 階段を上がりながら、どこかとはどこだろうかと考える。行きたいところはどこだろう。辿り着きたい場所はどこだろう。なりたい未来はどこだろう。死にたい場所はどこだろう。
 特に深い意味などないただの連想ゲーム。目的のための目的として、勝也はドアを開けた。
 途端に風が舞い込む。屋上は大きな空を見上げていた。
 屋上から見渡せば、島のなかで行ってみたい場所も見つかるかもしれない。
 だがそこには先客がいた。サチだ。相変わらずの白い顔に白いワンピース。そして白い体。雑誌のグラビアになるような生々しい画ではなく、芸術品として写されたパウダーをふるったようなきめの細かい色。サチには話しかけづらい印象がある。それは勝也の人見知りの部分からではなく、彼女の整合性からだった。彼女はしゃべらないことで完成している。黙っていて、誰にも話しかけられず関わりをもたないことで安定している。それこそ写真のなかの美しさだった。
 戦闘中に見たような翼はない。彼女は天使ではない。ただの人間だ。それも白痴か精神耗弱のような正常な人間とは違う程度の。それとも単純な知恵遅れかもしれない。
 様々な侮蔑の言葉を考えていると、サチが振り返った。勝也は内心で怯えた。心の裡を読まれて、彼女がなにか反撃をしてくるかと思った。
 しかし彼女のしたことは単純で、勝也の予想を裏切るものだった。
 サチは勝也にニコリと――目は子供を慈しむ母のように柔らかく、口角は淡く持ち上げられて、どこにも無理は見当たらなかった――頬笑んだ。



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