18話「サッカー - toe kick」

 室内には勝也と絵美、サチが集まっていた。絵美はTシャツはそのままに、スカートからズボンに着替えていた。
 勝也の脳裏にはまだ屋上でのサチの笑顔が残っていて、その真意を考えていた。
「――ということじゃ。ペドフォビアンが犯人を操っているのか判然とはしないが、ヤツがいるということは、なんらかの関与があると見て差し障りないじゃろ」
「被害者の容態は?」
「現在、病院に収容されたのが2人。最初と3番めの被害者で、どちらも男じゃ。腹部を刺されたり頚部を切られたりしていて重篤じゃ。残りの2人はどちらも女性。1人は口を切られた成人女性、もう1人は子供じゃ」
 博士は勝也を見遣る。明らかに勝也を助長するように話していたが、勝也は大きく反応せずに眉を動かすに留めた。
「さっきより増えてない?」
「お主らがここに来るまでに増えたんじゃよ」
 博士がキーにタッチすると画面が変わる。

 歩道の上をふらつくひげの男の向こうから小学生が数人歩いてくる。
「じゃあねー」
 下校の時間らしく、一人の少女が友達に手を振って駆け出す。別れを告げるのに気を向けていて、男に気づかずにぶつかった。
 悲鳴を小さくあげて尻餅をつく少女を、冷徹に男は見下ろした。少女が顔を上げると、彼女の目の高さにナイフがあった。カシャン、カシャンと切っ先を収めたり出したりしながら、少女を汚いものを見るように睨む。
 男はナイフを
 後ろに思い切り引き、
 少女の眼前に向けて
 突き出した。
 少女は目を
 閉じる。
 しかしその眼球はくり出されも傷つけられもせず、少女はゆっくりとまぶたを開いた。眼前に切っ先が突きつけられていた。少女はびくりと震えた。
 男はゆっくり手を引く。少女は安心して息をつく。
 刃を下に向けて、男は手を離した。重力に引かれてナイフが落ちる。上手な人が飛び込み台からプールに飛び降りるように、切っ先は太腿に吸い込まれた。
 金切り声を上げる少女の腿からナイフを抜き、シャツで拭う。歩き出そうとするが、少女が暴れて通れないようだ。舌打ちすると、少女の頭をサッカーのように爪先で蹴った。



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