20話「悲鳴を追って - chase with cry」

 霧が次第に晴れていく。そこは勝也の自宅だった。窓を挟んで川向こうには小学校がある。なるほど、たしかにここだと小学校を監視しやすいが……
 ケータイが震える。
『スマンスマン、間違えてしもうた』
 ディスプレイに映っている博士が笑って謝る。
『すぐ外に出て、小学校の傍へ向かってくれい』
 舌打ちをして家を出るが、鍵を持っていないことに気づく。でも、大した金目のものはない――望遠鏡以外は。それさえ盗られてなければ、被害といえるほどの被害はない。
 アパートを出て、通りを走る。すぐに曲がって川縁に出る。すると橋が見えてくる。それを渡る。
 川を越えると、大通りが横たわっていた。勝也にとってその記憶はないが、小学生の三田明乃を救った大通りである。勝也は小学校から離れて、大通りの歩道で立ち止まった。
『勝也よ、着いたか?』
「ああ、着いたよ、博士」
『小学校にあまり近づくでないぞ。一度お主の顔は見られてるんじゃからな』
「わかってるよ」
 勝也は周囲を見渡している。画面のなかで博士は、記憶もないのに物わかりのいいことじゃて、と小さく呟いた。

 一足早く転送されていた絵美は、町のなかを走り回っていた。
『すまんのう、また時間が経ってしまったもんで、ひげの居場所がわからんようになってしもうた、ホヒョッ』
 絵美は答えなかった。自分の役目――ひげの男を沈黙させること――を理解してはいたものの、近くにペドフォビアンが潜んでいるかもしれない。気を抜くことはできない。通りを抜けては曲がり、別の筋に入る。
 どこかで悲鳴が上がった。絵美は急いだ。
 道のまんなかに足を押さえている女性が座り込んでいて、周囲の人間がざわざわと騒ぎ始めている。
「大丈夫?」
 絵美が女性に駆け寄る。女性の足は、ふくはらぎがパックリと裂かれていて、鮮やかな赤い肉のなかに白い骨が見えている。
『博士、被害者が増えたわ』
「よし、今お主がいるところじゃな」
 ケータイをポケットに収め、女性に語りかける。
「すぐに救急車が来るわ。それまで傷口を強く押さえていて」
 傷口をグッと強く握ると、女性は短く鋭い声を上げる。治療に専念したいが、それに優先する目的がある。涙をまなじりに浮かべながらも傷口を強く抑える女性を視認すると、絵美は走り出した。



第19話←[TOP]思いは走れど、筆は走らず。倒錯偏愛パラフィリアン→第21話

inserted by FC2 system